日本国憲法 第二十一条
集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
検閲は、これをしてはならない。 通信の秘密は、これを侵してはならない。
日本国憲法には出版の自由がある。だから有害活動者といえども本を出すことができるし、それが大手出版社から出ることもある。それは誰にも止められない。ならばせめて古本市場ではゴミ価格で投げ売りされていてほしいものだが、大手の古本屋やAmazonマーケットプレイスでの相場を見るとそこそこの相場を維持していることが多い。
今回の記事では元古本屋経営者の私が古本相場の見方を、有害活動問題と向き合う時におさえておきたい知識として記しておく。
店舗の本棚に並べる場合
本棚に並べる場合はとにかく「回転力」が重視である。ほとんどの本の鮮度は短命で、新刊と言える時期に捌かないと後は不良在庫になる可能性が高いのだ。
発行されたばかりの新刊本や、新刊の鮮度は過ぎたが話題の本。一年中売れている名作本。これらには一点ごとに値段がつく。覚えるのは大変そうだがSNSやニュースなどで話題になるものが大半なので、人並みの社会性やサブカルチャー愛があれば大丈夫。それ以外の本は個別の値段がつかず、発行時期や本の状態を見て判断する。
もし傷みが多い場合は、どんなに新刊でも容赦のない価格がつけられる。例外として表紙の奇抜さや値付けした時の気分などで適当な価格がつけられることもある。話題の本でも在庫過剰になれば当然、買い取り価格に影響する。
「◯◯店で買取10円だった=その本の内容の価値が10円」ではない。その店の最低買取価格が10円だった、というだけの話である。文章の内容の良し悪しは一切関係ないのだ。
例:ダンボール一杯の本を買取査定する時
まず箱の中から上で述べた「一点ごとに値段がつけられる回転力のある本」だけを抜き出し、個別に買取価格をつける。その後、残った本の状態をざっとみて、まとめて値段をつける。その中にもし「デザインが新しくて綺麗な本がある時」は、新刊の可能性があるの一応調べる。1点毎に査定していたら経営が維持できないのでこういう流れになる。ネットの相場は気にしない。文章の内容の良し悪しは一切関係ない。
ネットショップに出品する場合
ネットショップに出品する場合も「回転力」重視であることに違いはない。本はあっという間に増えて場所を取る。倉庫を借りている場合は不良在庫のせいで無駄な費用がかかるし、元が木だから実はかなり重い。在庫の置き場によっては大型水槽やホームジムを設置する場合のように、耐荷重を気にしなければならない。(家に本が多い人は注意)
それでも店の本棚に並べるより査定作業自体は丁寧になる。相場データを確認できるサイトやツールをつかって、落札頻度やランキングの推移から「売れている頻度」を推測しつつ、平均相場を確認した上で出品価格を設定するからだ。
一手間かかっているようだが、バーコード付きならリーダーでスキャンして読み込むだけだし、何より店舗販売よりも多くの人にリーチがかかる。一時的に販売価格が高騰している場合やプレミア本なども逃さずチェックできる。
文章の内容の良し悪しは一切関係ない。
文章内容の良し悪しは一切関係ない
このように文章の内容の良し悪しは一切関係なく相場が決まっていく。システムやフローは店毎に異なるだろうか、基本的な考え方を書いたつもりだ。
「売れる頻度(需要)<市場に補充される頻度(供給)」のバランスならどんどん安くなってくし、強さが逆ならばどんどん高くなっていく。それは店舗販売もネット販売も変わらない。話題の新刊本がAmazonのマケプレであっという間に1円になるのはこのせいである。大量に売れるが、読後にすぐ手放す人が多いせいで、ネットショップ上で値下げ合戦が起きる。その話題や流行が一過性のものだと、その後の買い手がつかないので値下げ合戦が止まらない→1円まで下がってしまう、というわけだ。
(補足:マケプレ出品価格が1円でも、店舗出荷なら支払い金額には別途送料が加わり、売れた時にAmazon側から出品者へ配送料も振り込まれる。古本屋は配送業者と大口契約を結ぶなどして実際にかかる配送料を安くし、利益が残るようにしている)
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業者は商品を回転させる為、売上を維持する為に、こうして形成される相場を加味して販売する。これが近代古本市場のスタンダートな価格の付け方である。本の内容の良し悪しなんぞにかまっている余裕はないのである。
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なぜそうなるか? 書籍というものは他の産業品に比べて圧倒的に点数が多く、全ての商品個別を査定することが難しいからだ。総務省統計局のデータによると毎年発行される本のタイトル数は、ここ近年だけで見ても70,000点以上である。(参考:統計局ホームページ/日本の統計 2021−第26章 文化)
年間の新規数は本ほどではないが、トレーディングカードゲームもこれと似た流れで値段がつけられる傾向にある。
これに対して音楽やゲーム、車など、他産業の製品は新規数が少ない(それでも数千〜万単位だが)ので、1点1点に相場が発生しやすいのだ。
有害活動者の古本がそこそこの相場を維持している理由
ここまでの解説が理解できていればもうわかっているはず。
有害活動者はSNSなどで信者を集める→本の購入者の何割かは著者のファンに偏る→そういうファン層は大事に持ち続ける→古本市場に流れる在庫数に影響する→後からファンになった人が買う→市場が在庫過剰になりにくい→相場崩壊が起こりにくい→そこそこの相場が維持される、というわけだ。
こういう業界の都合を知らないと、
「◯◯先生の本が古本屋でたった100円で売られてる!😡」
「ネットの嫌がらせの影響がここまで。なんたることだ😡」
「フム。価値がわからない店員さんが値付けしたんでしょうね😡」
などなど、スペースキャットもびっくりのとんでもトークが著者のSNS界隈で飛び交ったりする。そのやりとりは腹筋が崩壊するほどの高い殺傷力を持っているので要注意である。
繰り返しいうが古本価格の相場に文章の内容の良し悪しは一切関係ない。もし有害活動者が自著の古本相場の高さを根拠に本の内容の良さを語った際は、温かい目で見てやってほしい。
「DELTA tracer」を使った相場チェック
参考までにだが「DELTA tracer」を使った相場チェックの説明する。
「DELTA tracer」ではAmazon商品の価格や出品数、ランキングなど、様々なデータの変動推移を期間別に確認することができる。拙著の「発達障害考察本:31歳までグレーゾーンだった私がやってきた改善法」(B07PN6DCMF)のデーターを例に解説しよう。
見なければならないのはページ内にある下のグラフである。
見方を説明する。グラフは「3ヶ月」のデータで、上から「価格・出品数・ランキング」とデータが並んでいる。「価格」の部分は出品されている中の「最低価格」が基準になる。が、私の本はKindle本なので、私が販売価格をいじらない限り同じままである。だから変動がなく、「500円」のラインに緑の横線が伸びている。「出品数」も同じ理由で変動がないので「0」を指している。電子書籍は在庫がないからだ。
では最も重要な「ランキング」の話をする。Amazonは公言していないが、Amazonでは本が売れるとランキングが上がる仕組みになっている(はず)。これは古物界隈のマケプレ出品者たちが定説として基準にしていることであり、実際に自分が出品した本が売れたタイミングのランキングを複数回見て確認した。ちなみに売れない間はじわじわランキングが下がっていく(はず)。
上の拙著のグラフでは、ランキングが数日置きにピクピク折れているのがわかると思う。折れているタイミング=ランキングがあがった=売れたタイミング、というわけだ。
比較用
こちらは本のタイトルは伏せるが、比較用にとったとある紙媒体本の中古データである。期間は3ヶ月。新品3,960円也。
青い枠の中を見る限り、中古相場は1,600円程度で安定していることがわかる。ランキングは40,000から120,000をうろうろしてる感じ。ちゃんと回転している優良商品である。自分がもし出品するなら2,000円程度かな、と思いつつ他のデーターで絞り込みなどをかけるだろう。
しかし赤枠を見ると、この期間だけグラフが大きく変動していることがわかる。この本のニュースなどがSNSで話題になったのかもしれない。相場は2,400円近くになり、出品数も20近くまで激減。ランキングも大きく上がった。この時に買った人は平均相場より数百円ほど高値で購入したと指摘できる。
その赤枠より過去のデーターは少ししか見れないが、価格のグラフが800円近くを指しているので、もしかしたらこの本の1年前の相場は1,000円以下だったのかもしれない、という推測ができる。
◇ ◇
このようなツールを活用することで、気になるあの本がどれくらいの相場で、どれくらいの頻度で売れているかが確認できるのである。自分がマケプレで古本を買う時も活用してみてほしい。不運にも相場が高騰していた時に買ってしまう事故が減らせるだろう。
余談
- 著者の死亡ニュースが流れると本が一気に売れて相場が高騰することがある。そういう時にグラフを見ると普段とは違う変動が見れることがある。
- 適正価格出品が全て売れて、誤注文狙いの高額出品だけが偶発的に残った際、その本がすごい高値で取引されているプレミア本としてSNS等で話題になることがある。そんな時もDELTA tracerなどで相場データを確認すれば「真実」がすぐにわかる。「プレミア本だ!→データーを見る→つい先日まで100円やないかーい」なんてことはザラにある。