中学生の入学式の最中、私は校長先生の話に感激していた。話の内容は覚えていないけど、「これからの皆さんは小学生とは違う。中学生は大人です」といった感じの話だった。一応言っておくが、どこの入学式でも聞けそうなよくある内容の話、だったと思う。
小学生の頃の私は不真面目で先生に怒られてばかりだったから、これからは大人になったつもりで真面目になろうと思った。
◇ ◇
私はその新しい志を1秒も早く実行したかった。そうしなければ悪いことだとさえ思った。
入学式が終わったあと、生徒たちは整列したまま教室へ移動することになった。自分がいる列の番になり、2列を維持しながらぞろぞろと体育館を出た。
体育館の外はさな板で、すぐ目の前に渡り廊下がある。その渡り廊下に差し掛かるよりも前に、私は目の前を歩いている生徒の肩を叩いて言った。
「友達になろう」
その生徒は一瞬間をあけてから言った。
「……いいけど?」
聞き違いでなければ「?」マークがつくイントネーションだった。
私は一仕事終えた気持ちになり、安堵した。
◇ ◇
この生徒と話したのはこれが最初で、最後だった。なぜなら、自分から友達になろうと声をかけたこの一件を忘れたからだ。忘れたのは恐らくこの会話を終えた直後だと思う。顔もよく覚えていなし、クラスも別だった。この生徒から声をかけてきたこともなかったと思う。