言壁の棺

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幕間8:体育の先生のアウトドアチェアを盗んだ話

 中1の頃の話。ある日、私は家のベランダに手頃な椅子がほしいと思った。

 学校の運動場の朝礼台の下には、体育の先生がいつも授業で使うアウトドアチェアが畳んだ状態で置いてあり、それを自分の家で使うことにした。

 放課後にフェンスのくぐり門扉から運動場に入り、スタスタと歩いて朝礼台に行き、ガシッとアウトドアチェアを手に掴んでそのまま持ち去った。学校から家までは徒歩5分程度なので移動に伴う苦労は特になかった。

   ◇ ◇

 それから10分くらいしてから、私はまた椅子を担いで学校へ行き、椅子を朝礼台の下に戻した。

 一旦は家のベランダに設置して座り心地を堪能したのだが、数分したら自分が泥棒をしていることの深刻さがむくむくと膨らみ、「まだ誰にもバレていない、まだ間に合う」と改め、返すことにしたのだ。

 幸い、持ち去るところも返すところも誰にも見られなかった(と思う)

   ◇ ◇

 この頃の私はクラスメイトから嫌われており、当時の私はその状況を「いじめられている」と認識していた。頭の中では毎日自分をいじめてくるクラスメイトを惨殺していた。その妄想は時に不安を生み、明かりのように点いたり消えたりする不安は私を焦らせた。いつからか「俺はまともだ」と思いたくなり、いつもまともに生きていることにしたくなり、だから私は思ったことをそのまま深く考えずに実行したのだ。

   ◇ ◇

 この頃の私にとってまともな人生とは、「何事もなく行動していること」だった。それがあらゆる心理検閲を素通りさせた要因だった。

 ちなみにこの頃、学校の傘立てに入っていた誰かの傘も盗んだことがある。それも翌日には罪悪感が強まって元の場所に返した。